雨の中、無様に倒れている彼の傍へゆったりと歩み寄る。
流れる血は泥と交ざり合い、絡み合い、境界を失って広がりゆく。いつかはその紅色も黒く変わるのだろう。白く清らかな君の体から出た血が黒く変わるというのも、なんとも信じがたい話だ。
だが、信じようじゃないか。何せこの光景を突きつけられるのも数百回じゃきかないだろうからね。
私は暗く息を吐いて、イーノックの横へ膝をついた。雨は彼の血を攫って行く。
「……」
手の甲でそっと彼の頬を撫ぜる。奪われた体温は降りしきる雨によってますます冷たくなっていく。
開きっぱなしの瞳孔と、閉じることの無い唇。
ぱし、と頬を叩く。その痕が赤くなることはない。
私はもう一度深く溜め息をついて、指をぱちりと鳴らした。
「……そんな装備で大丈夫か、イーノック」
彼は白く晴れ渡った空を背景に、満面の笑みで応える。
「大丈夫だ! 問題ない!」
は、と失笑がこぼれた。
ああ。まったく、可笑しな話だ。
「そうか。それなら行ってこい」
「ああ!」
君はくるりと背を向けて、そして今日も駆けて行ってしまう。
私は空を大きく仰いだ。今日も恐らく、雨が降るだろう。
「人間の持つ力――選択の力」
神よ、願わくば私にもその御力を、などと願うことができるほど、私はまだ浅ましくなれなかった。
愚か者は繰り返す
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