「“トリック・オア・トリート”!」

 銀のような純粋さでイーノックが両腕を突き出す。光り輝く笑顔を向けられた大天使は片眉を吊り上げた。浅く陽に焼けた腕はうずうずと何かを所望している。引かれる気配はない。
 ルシフェルは錆び付いた視線で差し出された腕を一瞥し、仄かな微笑みを匂わせた。

「何の真似だ」
「今日に限っては神の恵みを讃えるとき、この言葉を使うのだろう?
 さすれば素晴らしい御慈悲と、祝福とが頂けると」
「誰がそんなことを」
「評議会の面々から伺ったのだ」

 茫然としながらも猛烈な倦怠感を覚え、ルシフェルは額に手をやった。
 あの愉快屋達め。常に退屈を持て余している兄弟達のニヤついた顔が頭をよぎる。何万年も前に言った戯れ言を今更掘り返すことはないだろう。しかもよりによって、この猜疑心など砂程度にも持ち合わせていないような男をからかうとは。

「この罪は重いぞ」

 ちら、と目を上げる。哀れな書記官は懲りずに手を差し出し続けている。
 ルシフェルはうんざりしたように瞬きをし、それから重い口を開いた。




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